D-Lab




研究テーマとプログラミング

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 様々な特性・機能性の中で私たちは現在『イオン伝導性』『水素エネルギー』『大気圧放電』をキーワードに、大きく3つのチーム(燃料電池、イオン放出、大気圧プラズマ)でそれぞれ実験研究を進めています。得られた試料の構造と特性との相関を考察するため、多くの実験データをうまく処理する統計解析や因子分析などを底辺に据えて、学生さんと一緒にデータサイエンスを学び進めています。データ解析や計算ログ収集、また温度やイオン電流といったデータ測定にもPythonを積極的に利用します。情報系のAI研究や機械学習を専門に研究しているラボにはまだ全くおよびませんが、材料研究を強力にサポートする自動測定・解析といったプログラミングを全員で勉強しています。研究内容やPython、LabVIEWなどに興味ある学部3年生はぜひ一度、研究室見学に来て下さい。

Research Topics

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高いプロトン伝導性を示すガラスの開発

 廃熱の有効利用や白金など貴金属電極触媒が不要などの利点から,300〜500℃程度で動作する燃料電池が注目されています。一般にリン酸塩ガラスはシリカやホウ酸ガラスと比べて高いプロトン伝導性を示しますが,一方で水に弱い性質(潮解性)もあります。燃料電池では反応によって水が生成するので,電解質には高い耐水性が不可欠です。私たちは50 mol%以上のリン酸成分を含む耐水性に優れたガラスについて研究しています。ガラス組成によって電極と強固に密着し,比較的高い導電率を示すことを確認しています。今年(2022年)には燃料電池評価装置を導入でき,今後発電試験にも積極的に取り組みます。

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燃料電池発電時のガラス中のプロトン濃度

 ガラス中でプロトン(H+)は主にヒドロキシ基(P-OHなど)の状態で存在しています。ガラスは一般に1000℃以上の高温で溶融して作製するためOH基は溶融過程でほぼ失われ、従ってガラス中のプロトン濃度は一般に極めて低いです。燃料電池発電環境を模擬して、ガラス両面に白金系活性電極を蒸着して水素雰囲気で通電しつつ、外線分光法を用いてOH基濃度の時間変化を赤調べたところ、乾燥水素雰囲気では変化はありませんが、僅かに(〜1%)加湿しながら通電すると、OH基濃度が大きく上昇することがわかりました。

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先鋭化ガラス先端からのイオン放出

 イオン伝導性ガラスを先鋭化して数 kVの電圧を印加することで,伝導する1価イオンが先端から放出されることを見出しました。シンプルな機構であり,〜1 cm程度の手のひらサイズにイオン銃を小型化可能です。銀イオン伝導性ガラスを用いて室温の大気圧条件で電圧印加したところ、電子顕微鏡写真より,銀ナノ粒子析出が確認されました。同様の手法で他のイオン種(Cu+、H+、F-イオンなど)の放出につても検討しています。

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電気化学水晶振動子微量電便を用いた質量分析

 大気中で針状電極に高電圧を印加すると容易に放電が生じてしまい、イオン放出と放電電流をそれぞれ区別することが重要になります。電気化学水晶振動子微量天秤では、イオン電流の計測と同時に電極上の堆積物をngオーダーの精度で測定可能です(EQCM測定)。ただし図のように電気化学測定時のノイズが振動数に影響するようで、ノイズ対策が必須でした。 銀イオン伝導性ガラスのイオン放出に対してEQCM測定を実施したところ、イオン電流の時間積分よりファラデー則に基づき算出した銀の質量と、周波数変化から実測した質量の両者が室温で2時間程度、また60℃に加温すると4時間程度一致することがわかりました。観測されるイオン電流が大気放電ではなくAg+イオン放出によるものであることを示唆する結果です。

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生きている細胞へのイオン照射

 大気圧イオン照射の特長を活かして、生細胞に対して様々な条件で銀イオンを照射しました。10~数10秒間、銀イオンをマウスマクロファージに照射して培養したところ、少量のイオン照射では未照射と比較して3日間培養後の生細胞数が増加しており、また多量のイオン照射ではむしろ生細胞数が減少しました。マクロファージ増殖能の向上は外傷の早期治癒など、また細胞死の誘導は不良細胞やかゆみの原因菌の死滅などにつながると期待され、照射するイオン種や照射量などを変化させて実験を行っています(名工大 小幡亜希子先生との共同研究によるものです)。

スピノーダル分相を利用した多孔質光触媒ガラス

 多量のTiO2とSrO成分を含むホウケイ酸塩ガラスを分相・結晶化させたのち、室温の塩酸で数分処理することでソーラー水素製造の光触媒として注目されるSrTiO3の析出した多孔質結晶化ガラスの作製に取り組みました。主成分がTiO2、SrO、SiO2(+融点を下げるための添加物)ガラスからは目的結晶であるSrTiO3が析出しましたが、多孔化(分相)のためB2O3成分を添加すると当該結晶は消えてしまいました。MD計算によってガラス組成とガラス中のSr2+イオンの動きを検討し、多成分組成にすることでSrTiO3結晶析出と多孔化を達成しました 。

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AE法による複合材料の破壊検知

 金属とセラミックスを接合した複合材料などの劣化・破壊検出を目的として,部材の剥離や亀裂発生時の音をマイクで集音するアコースティックエミッション(AE)法を利用した解析を進めています。低温域(-40〜180℃)もしくは高温域(RT〜400℃)の指定温度範囲で数千回のヒートサイクルを実施しながら,材料の変形(変位)とAE信号を同時取得できる装置を組み上げました。図はパワーモジュールの絶縁基板(窒化物セラミックス板と銅電極が接合されたもの)のヒートサイクル試験結果で,徐々に変形量(橙色)が大きくなってAE音(赤丸)が観測される様子(=亀裂が発生)が明確に観察されています。赤丸1点1点(AE強度)は1024点からなる波形データを内包しており,周波数解析によってセラミックス基板,もしくは基板/電極界面に発生した亀裂のいずれかを予測することが可能です。

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AE法による複合材料の破壊検知

 AE法を用いて,複数材料を組み合わせたモジュールの内部で発生する界面剥離や亀裂などの劣化事象検出に取り組んでいます。こういったモジュール製品は一般に樹脂などで覆われて保護されており,破壊箇所を顕微鏡などで直接観察することは極めて困難なうえ,そもそもどの部位がいつ破壊したかのか評価することも難しいです。図はテストモジュールに対してヒートサイクルを実施し,発生したAEシグナルをフーリエ変換してその波形重心を計算した結果です。構成部材によってAE波形重心がやや異なる傾向が見られます。FFTで失われる時間情報に対してウェーブレット変換を適用した解析など,できる限り即時かつ破壊箇所の判定精度を高める方法について検討しています。